建築道(みち)13・・建築士試験は過酷

 彼が勤めた唯一の会社、全国展開住宅会社には感謝している。そこで社会人というものを知り、建築や法律を学び、資格を取ることが出来た。しかし「根っこのところが自分と違う」という違和感を7年間持ち続けた。配属支店は24人の先鋭のスタッフで年間100棟もの注文住宅の物件をこなしていた。とにかく忙しく、1棟1棟家族に寄り添って設計など夢のまた夢だった。

 彼は大学で設計製図を教えたが、現場を知らない。そこで入社直後は設計の合間に木造平屋の住宅の現場監督をするという二刀流となった。その時の大工棟梁、年は若いが酒が好き、口が悪いが腕が良い、「形あるものは何でも作れる」と豪語する、昔ながらの職人気質を持つ人だった。そんな棟梁に一から現場を教えてもらう。これまで現場監督の経験はその現場と自邸建築の2棟だけなので、それは貴重な経験になった。

 入社の年に2級建築士を取り、2年目に1級建築士を取った。彼が資格専門の学校に通わず1級建築士を最短でとれたのは、その年に長女が生まれた事が大きな力になったはずだ。因みに次女が生まれた時は宅地建物取引主任者試験に合格する。

 建築士の製図試験は過酷。多くの体験者は2度とやりたくないと言う。1級建築士受験資格として大学建築科卒業後2年の設計等実務経験が必要で、卒業後3年目に始めて受験資格ができる。試験は学科と製図があり、学科試験に合格すると2か月半後に製図の試験がある。学科試験合否発表前に製図試験課題のテーマが発表されるため、その前に製図試験の準備をする必要がある。彼の受験した1級建築士製図試験の課題テーマは「居住施設」で言わば専門分野。専門誌の事前予想ではタウンハウス型共同住宅か高齢者施設だったが、試験当日発表された課題は「企業の寄宿舎」だった。これを6時間半で計画(プランニング)と基本計画図を描くという試験だ。2級建築士製図試験は法律に合致し図面が完成していれば合格する。しかし1級建築士は規模も大きく、計画の良し悪しも評価の対象になる。1級建築士の合格率は10%を切る。これは自動車運転免許「一発試験」と同程度の合格率だが、一発試験は次の日も受験できるが、1級建築士試験は年に1度しかない。

 課題テーマ発表から製図試験まで2カ月間、彼は基本計画図を毎日1枚書いた。6時間半の製図は冷静に対処すれば問題ないが、途中のちょっとしたトラブルで平常心でなくなる事が問題だ。彼は対策とし、指定床面積の範囲内で出来るだけコンパクトに面積を抑え、図面作成の時間を短縮させる作戦をとった。計画中に周りの人が書き始めると焦る。6時間半緊張し続け図面作成の作業は心身共にくたくたになる。建築士はそこを通り抜けて資格を取っているのだから、みんな偉いなーと思う。しかも昨今は取得後も3年に一度、1日講習と難問試験を受け続けなくてはならないという負担も負っている。

 彼は最初の目標、1級建築士免許を取得した。高齢親は建築士を志す近所3人の中で最初に取ったことを大いに喜ぶ。しかしその時は長年の大酒で体を壊し、酒騒ぎは出来なくなっていた。

スペイン コルドバ