豊吉はほどほどに

結婚した時、とんでもないものを貰った。いや、預けられたが適切だろう。

 学生生活が終わった年に結婚した。若気の至りと言うことでもないが、いろいろな出来事からこうなってしまった。今思うと、建築家としては結婚が早い部類にはいるだろうが、建築修行に集中でき決して悪い事ではなかった。問題なのは、その時に親から預かった「豊吉(とよきち)」にあった。結婚を決めた二人を前に「めでたき事なので豊吉をやるので子供ができたら名付けるように」と言う。それはあたかも結婚の条件のようでもあり、無茶苦茶な話とも言える。

 「豊吉」とは実家が多少経済的に良かった時代、3・4代前の二代に渡る名前。特に4代前豊吉は一癖も二癖もあり財を成し(財を成したと言ってもたいしたものではない)、一方3代前豊吉は温厚で皆から好かれた人物であったと言う。これは一族内では語り癖になっており、ようは縁起の良い名前で、一族的には由緒ある名前となっている。

 聞き慣れている名前であり聞き流したが、初めてその名前を聞いた婚約者は多少動揺した。後にそのいわれを教えたが、意味が分からないようだった。そして曖昧なまま結婚した。その2年後に長女が、3年遅れて次女が生まれた。さすがに女の子に豊吉はない。自分は3人目を望んだ。しかし、それまでの家事や子育てに対する態度・行動が問題となり、拒否されてしまった。言い訳になるが、その時は自分が建築修行まっしぐらの時期と重なる。

 そんな事で、幸いにしてこれまで名前問題は浮上しなかった。しかし時折「豊吉」が思い浮かぶ。なんせ由緒ある名前だし、この時代けっこういけるかもと思う。そこで娘達がある年齢になった時、この「豊吉」の話をし「どちらか先に男の子ができたら、豊吉をあげる」と話してある。娘達がなかなか結婚しなかったのは、これがあったのかもしれないので、この話題はほどほどにしよう。

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