娘が初めて結婚式の招待を受ける。しかも友人代表スピーチ付。
何を着てこうなどと楽しそうに家神と話してたので、ついよけいな口を挟んでしまった。
「スピーチ、考えてやろうか」
瞬間、みょうな雰囲気が漂う。
すると娘が
「キラキラでも教えてもらおうかな♪」
と言う。
「・・・・・・」その言葉がグサッと突き刺さる。
さすが我娘。それ以上何も言えない一言を言う。
「キラキラ・・・・」
思い起こせば数年前、姪の結婚式の出来事。
招待状に「おじさん、歌をお願いします!」と書かれている。
彼女のためにも新婦親族の実力を見せようと誓う。
あれこれなんの曲にしようと思案。ちょうどそのころ「恋のチカラ」というドラマが我が家女性陣に大うけ。絶大な支持を集める。
「あれなら二人にピッタリだ」
よりによって僕はこの主題曲を歌ってやろうと思ってしまった。
それから1週間、仕事をしながら毎日8時間以上同じ曲を聴き続ける。
そして普段めったに行かないカラオケBOXに2度も行き、同じ曲を歌い続ける。
姪の結婚式で、これだけ努力してるおじさんもいないはず。
彼女の祝福には最高の曲だ。
この歌はキーが高く難しいことは分かっている。
しかし、難しいから意義がある。これは彼女へのメッセージなのだから。
そんな自分に酔ってしまったことが間違いだった。
式当日。
二人が入場。みなで「乾杯!」と高らかに杯を重ねる。
その声につられ心もヒートアップ。
予断だが、僕は学生時代の演劇部助っ人などで修行、人前であがることはまずない・・・それまでは。
「それではトップバッターで新婦のおじさんで・・・」
ついに今までの苦労が報われる時が来た。
少し気になるのは年配者が多く、ほとんどの人はこの歌を知らないと思われること。しかし、そこは若いおじさんの存在をアピールもできる。彼女と僕とは14歳しか歳が違わない。
伴奏が始まる・・・「えっ!」「今までとキーが違う!」
ここは式場。
スナックみたいに「ちょっとキー変えて」などとはもちろん言えないのである。
結果はボロボロ。
あのウイーン少年団はどこにいったのだろう。
会場内を星が回る。
いままで生きてきて、こんなひどい歌を披露したことがない。
思いなしか、姪も僕と目を合わせないようにしている。
きっと、新郎の親族には「とてつもなくオンチのおじさんを持つ花嫁」だと思われたに違いない。
席にもどると。親族が「最初に歌う人はこうでないと・・」などと言う。
ぜんぜん慰めになってない。
「1週間このために曲を聴き続けた」などとはとても言えない。
新郎親族のみなさん、僕はその昔ロックバンドのボーカルを志したんです。
それからその曲を口にしないことは言うまでもなく、この曲を聴くとその会場が昨日のことのように僕の目の前に幾度となく現れるのだ・・星と共に。
その時の曲が 小田和正の「キラキラ」。
恐るべし小田和正、今年61歳。
彼は東北大学建築科卒業です。