建築道(みち)21・・「ルルドの泉」のお守り

 1年弱通った高台のカトリック系幼稚園が大好きだった長女。母の病で母の実家に行っていたので2か月間お休みしていた。その間に引っ越しが決まり、長女は昨年2か月だけ通園した福島の街中のカトリック系幼稚園に再び通う事になる。残念だったが家族で退園の報告と挨拶に行く。シスター達はツレの病を心配していてくれ、長女とツレの元気な姿をとても喜んでくれた。彼は事情を話し、お世話になったお礼と長女が「4月から福島のカトリック系幼稚園に通う」ことを伝える。彼女たちは家族を祝福してくれた。そして3人のシスターは母の健康と家族の無事を祈念してくれ、「ルルドの泉」のお守りを家族に渡した。夫婦は彼女たちの優しさにとても感激した。 

 長女は親の事情で2年間に3回も幼稚園に入ることになり大変だったと思う。しかし親も3回幼稚園の入園金を支払うことになり大変だった。さらに彼の独立決断の一角には長女の転勤反対大泣き騒動が少なからず影響していた。一方いつも姉を追いかけていた当時2歳の次女は当時のことは覚えてはいない。

 荷物整理が見えてきた引っ越し前夜、親族が倒れたと彼の兄から電話がある。それまでそんな重大な病気を抱えていたことを知らず、彼は動揺した。しかし明日引っ越しを控え直ぐに300km先の病院に行くことは出来ず、明日午前荷物を送り出してから向かう事を伝えた。

 翌日、荷物を送り出し、娘たちと良く遊んでくれたカズくん一家に見送られ1年間過ごした家を後にした。行先は引っ越し先ではなく、故郷の街にある病院に向かう。病人に「独立のため福島に戻った」ことを報告し、担当医師から病状を聞いた。夜は福島に戻り街中ホテルに宿泊、ツインの部屋に4人で寝る。彼は昨年まで福島に6年住んだので、福島でのホテル宿泊が妙な感じがした。

 次の日午前に引っ越し先で荷物を受け取り、再び一家で50km先の病院に向かう。病状は安定していた。安心して福島に戻り、荷ほどきを開始した。その日は最小限使うものだけを探した。夜、近くに弁当を買いに行く。それまで6年暮らした土地への出戻りで、どこに何を売っているかがある程度分かる。しかし夜の弁当屋の明かりはそれまでと違い、振り向けば福島の街も一年前と全く違って見えた。

 荷物を寄せて布団を敷くスペースを確保、いつものように家族で川の字に寝る。彼が目を閉じると、これまでの福島での数々の出来事や因縁が次々と頭を過る。学生時代に何度も受けた福島での自動車免許一発試験、サークル活動での福島の大学との交流、就職とツレの転勤、結婚後の新居、建築修行、二級・一級建築士受験・・・と。そして明日から独立への戦いが始まる。

 

 

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