ものごころ付く頃にテレビがやってきた。そこに流れる漫画の虜になる。野山を駆けまわり、夕方テレビで漫画を見、夜漫画を読む生活が続いた。思春期になると漫画ばかりでは格好がつかず、少し本を読むようになる。しかし建築を志すと一変し、専門書しか読まなくなり建築一色になる。いわゆる漫画育ちの建築馬鹿だ。たまに読むのは歴史物くらいで「彼らがどう生きたか」を求めた。そんなこんなで40代に入った頃にやっと小説を読みだしたほどだ。読みだしたと言っても寝る前の30分位なのだが・・・。
そんな身で大胆にもどうしてイシグロ文学に飛び込んだのか、それは昔からスピーチに弱い側面があるからだ。バラク・オバマのYes We Can!や広島スピーチはいつでも全文を読めるようにしてあり、ケネディーやキング牧師も熱い。どうも感動癖があるようだ。今回もそう。彼のノーベル賞受賞スピーチを読み、アッという間に虜になってしまった。・・ちなみに昨日の「イチロウへのディー・ゴードン内野手の新聞広告」にも感動!した…。
8冊の小説の舞台はそれぞれ。日本が2、上海が1、イギリスが2、東欧が1、そして短編集が1冊で、それぞれが面白く興味深い。中でも驚かされたのは「充たされざる者」。世界的ピアニストが東欧のとある町に訪れて・・と言う内容だ。たった4日間?の出来事が938ページに渡る。4日間?としたのは、読み終えた時、もはや日にちなどは分からない状態になったからだ。なにせ938ページだ。「充たされざる者」とは読者(自分)ではないか・・と感じる。モヤモヤした気持ちで翻訳者のあとがきを読めど、充たされる事はなかった。恐るべきイシグロ文学なのだ。もしこの作品を読まれる方がいれば、8冊のうち始めと終わりは外した方が良い。他7冊作品のうち最新作と、イギリスのブッカー賞受賞作、そしてノーベル賞受賞作の3作が特に惹かれた。
読破3か月が過ぎ、いまだイシグロ・ロスから抜け出せないでいる・・・。そしてまた今夜、戦中戦後の日本が舞台の「浮世の画家」がテレビで放映される。もちろん録画予約をした。